【学部3~4年生向け】建築学生の生存戦略を考えてみる

ここ最近、頻繁に建築学科の学生さんと会って話すようにしています。

1番の目的は今の学生さんがどんなことに興味があって、どのように建築の情報を得ていて、なにに時間やお金を投資しているのかを知りたいということ。

僕は建築関係のコンテンツ制作に携わっているので、簡単に言えば若い人のニーズやシーズを捉えようというのが目的です。

 

その中で、僕が学生だった10年前と同じ悩みを今の学生さんも抱えているのだなぁ、というのが印象的でした。

建築の道に進まないことを決めた建築学生が、学生生活をどうデザインすればよいのか問題です。

その悩みを解消するために、学生がどのように動くと良いのかを書いてみたいと思います。

 

教育の在り方も、大学によってそれぞれ特色はあるものの、根底にある考え方は10年前と変わっていないと感じました。

10年で世の中も建築業界も、大きく様変わりしています。

にもかかわらず教育が変わらないのは、いまも昔も「建築家になる」ための方法は不変であるためだと考えられます。

いま大学で教鞭を執っている先生方も、かつては大学生として教育を受け、それぞれのルートで現在のポジションについています。

自身が受けた教育と、自らの実践を通して、いま学生に伝えるべきことを教示している、それが結果的に10年変わっていないのであれば、そこにはある種の合理があるのでしょう。

また大学で教えている建築家の方というのは、建築家として成功を掴んだ一握りの方々ですから、その道に進みたい方は盲目的に最大限の評価を得られることを考えるのが適しているのかもしれません。

 

ではそうでない人はどうか。

建築学科を出たからといって、実際にアトリエ系といわれる建築事務所へ入所し、将来の独立に備えて修行する道を選ぶ人はそう多くはありません。

組織設計事務所やゼネコン、開発系、ハウスメーカー、インテリア会社などなど、一口に建築や設計関係の仕事といっても進路は多岐にわたります。

また割合的にそれほど多くないものの、広告業界を代表するクリエイティブ産業へ進む人もそれなりにいます。

僕自身はというと、学部4年の卒業設計を経て、自分の進む道は建築の設計ではないかもしれん、と思いはじめました。

まぁ大学院に進学することは決めているし、2年間のモラトリアム期間中に答えを出せば良いか、という甘い考えで進学しました。

僕のような学生さんは、案外多いのではないでしょうか。

 

ご存知のように、建築の設計課題に取り組むと、たとえそれが実現を前提としないアイディアだけのものであったとしても、さまざまな知識や能力が必要になります。

与えられた課題の意図を読み取り、リサーチを通して現状の課題を知り、フォーカスする点を決めていく。

案を検討する段階でもさまざまな分野の知識を得、参考になる考え方を抽出し、無数の要素を統合し案を固めていく。

アウトプットの力も重要ですし、プレゼン能力も必須です。

模型製作においては後輩を動員して円滑に作業を進めるためのマネジメント力も求められます。

 

こうした過程を通じて、建築設計以外のことに興味が向かうのはむしろ真っ当なのではないでしょうか。

ただ残念なことに、設計課題を設計課題としていくら評価されようが、建築外の世界で同じ様に評価してもらうのは難しいです。

同様に、建築のアイディアコンペや学内での輝かしい受賞成績も、建築の外に目を向けるのであればほとんど効果を発揮しません。

 

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ではどうしたら良いのか。

答えは非常にシンプルです。

学生生活を通じて、戦えるポートフォリオをつくっていく、ただそれだけ。

ポートフォリオといっても、設計課題だけをまとめたものを意味しません。

論文やサークル活動、友人を集めて自主開催した学外での活動なども含め、自分という人間を表現するために必要な要素を固めていく。

そのためには当然、「これを見てもらえれば自分の魅力が伝えられる」という形にできるよう、学生生活自体をデザインする必要があります。

そしてそれは、建築的に評価されることを目指すのではなく、自分という人間がどのようなことに問題意識をもっており、それを解決するためにどのような方法を用いたのかが明確に表現されている必要があります。

 

建築の外に目を向けると、最近では若い学生がSNSを通じて多数のフォロワーを集め、そのまま就職を決めたり、会社を立ち上げたりといった動きが見られます。

これはフォロワーが多いことが評価されているわけではなく、その人のもつ問題意識が多くの共感を集めていること、そしてそれだけの表現力があることに投資価値があるとみなされるわけです。

就職はマッチングです。

ある会社の求める人材にはそぐわなくても、別の会社には喉から手が出るほどほしい人材であることは当たり前。

日本の就活市場がまるで上から順に優秀な人が決まってしまうような構造になっているのは、本来マッチングであるはずの就活が、自己表現を抑制して一般的なマナーといった明確な優劣が付く部分での勝負になってしまっているからです。

だから就職後、思想が全く合わずに早期転職などの事例が後を立たない。

はじめから「自分はこういう人間です」ということを明確にアピールし、うまくマッチする会社と出会えた方が、双方にとって良いはず。

SNSのフォロワーが多い人が就活に有利なのは、その人の考えが誰にでも見える形で表現されているから。

時には批判にさらされて、それにどう対応しているのかも手にとるようにわかります。

自社に合う人材を探している人からすれば、面接の数分でしか判断できない人より、よほど良い判断材料が用意されているわけです。

ポートフォリオで表現されることは、ここまでオープンでなくともあなたという人間を理解してもらうための近道になります。

 

これは決して建築以外の道に進む人にとってだけでなく、会社員として設計に関わりたい人やアトリエ志望の人にとっても役に立つはずです。

 

これだけ先の見えない時代に、建築学生ほど恵まれた学生も少ないのではないかと思います。

建築学生たる読者の皆さんは、宿命的に自己表現するための機会をふんだんにもっているわけですから。