建築のコンテンツ発信を考える~目的別のポジショニング編~

学生であれば学びをアウトプットするため。

事務所を構えている設計者であれば自社の設計事例やフローを紹介するため。

 

建築についてなにか発信しようとする時、その背景にはさまざまな目的があります。

発信することを通してなにを得たいか、ゴール設定によってもコンテンツの内容は変わってくるでしょう。

どういった目的でどのようなゴールを目指している場合、コンテンツについてはどう考えればよいか、個人的な考えを書いていきたいと思います。

 

事象を捉えるアート/サイエンスの軸

昔の人は言いました。「用・強・美」を兼ね備えた建築が良い建築だと。

使いやすく、構造的な強度もあり、美しい建築。

構造は建築のサイエンス的な側面、美しさは建築のアート的な側面とざっくり考えてみます。

「用」についてはケースバイケースで振れ幅も出てくるとして、ある建築の中に見いだせる事象はアートとサイエンスの両端の間に収まっているとしましょう。

 

建築についてなにかを発信する場合、このグラデーションの中のどの部分を自分はピックアップしたいのか、どこに興味があるのかを考えてみる必要があります。

その上で人に伝えようと思った時、さらにそのピックアップした部分をアーティスティックに見せるのか、サイエンティフィックに見せのかという問題が生じてきます。

たとえばある建築空間の心地よさについて語りたい、という場合、その建築のアート的な側面をピックアップすることになります。

それを説明するために、印象的なシーンを捉えた写真を用いるのがアーティスティックな見せ方、一方日照の分布図や空気の流動条件等の数値と人間が心地よいと感じる空間の関係を示すのがサイエンティフィックな見せ方。

 

横軸を建築の事象のアート/サイエンスの軸、縦軸を語り方のアート/サイエンスの軸とした時に、自分が発信すべきことが、座標のどこに位置するのかを考えてみる。

さらにひとつの完結したコンテンツとしてまとめる場合、語り手としてエモーショナルに語るのか、ロジカルに語るのかという選択肢も出てきます。

 

事務所を運営している設計士の方が、HPにやたらアーティスティックな写真やエモーショナルに建築を熱く語るテキストを載せていても、家の設計を検討しているクライアントとしてはなかなかほしい情報を得られません。

一方で、その人がどんなところにこだわりをもっているのか、どのような建築を実現していきたいのかといった姿勢に共感し、まずは一度会ってみようかと考える人がいるのも事実です。

そのため自ら設計する建築について、アーティスティックな側面をエモーショナルに語る場、サイエンティフィックな側面をロジカルに語る場を、目的に応じて使い分けられると良いのではないかと思います。

 

HPでは実際に設計した建築について理解できる写真と図面、依頼から竣工までのフローといった情報を提供しつつ、そのほかのツールで竣工後に使用されているシーンや人となりが伝わるコンテンツも発信していく。

ひとつのプレゼンテーションにすべて盛り込んでしまうと、見る側にはストレスになってしまいますから、目的・場所を踏まえて使い分けていく必要があるでしょう。

 

メディアに関わる人間としても、アート/サイエンスの座標とエモーショナル/ロジカルの振れ幅を意識しつつ、建築に関わるさまざまなコンテンツを提供していきたいと考えています。